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終焉よりの箱船 第9話 ~システムエラー~
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「そうだ、ティッシュくん。これ持ってけよ」
突然ノレンに見慣れないものを手渡され、
街並から自分の手の中に視線を映したティッシュは、腰を抜かしそうになった。
「これ?
 これ.....えええ、何コレ!?」
上空から街を見回していた鳥がばさ、と音を立てて降りてきた。
「この施設、入ってきたところと同じような扉が6カ所はあるようだ。
 残念だが、どこが我々の行くべき道なのかは調べようがないな....
 ....ティッシュくん、どうしたんだね、それは」
「あの白衣が持ってた銃さ。化け猫の方は88号が持ってる」
「で、で、でも、僕銃なんか触ったの初めてで」
「撃てなくても、とりあえず見せりゃ脅しくらいにはなるさ。勇者もビックリだぜ」
「えええー.....」
「確かに、この先何がどうなるか見当もつかない。
 いざと言う時のためにも武器は必要かもしれないね.... 気は引けるが」
過去の出来事を何か思い出しでもしたのか、鳥の声は少しトーンが低かった。
「そんなことより!どーすんだよ、急ぐにも急げねーぞ!」
「今作戦会議中だ!」
「88号君、危ないから振り回すのだけはやめてくれ!暴発したら命に関わる!」

「命に、関わる....か」
鳥まで巻き込んで大声を出し合っている3人の横で、手の中の銃をぼんやり見ていると、
「.....」
突然ティッシュは顔を上げ、歩き出した。
「行こう」
「え?でも、どこへ.....」
「なんかよく分かんないけど、入ったところと反対側に行けばいいんじゃないかな!
 そんで、間違ってたら間違ってたで、そのへんの人を脅して道を聞こう!
 行けばなんとかなるよ多分!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待てよティッシュ!?やる気満々だな!」
どんどん(しかし若干ふらふら)進もうとする彼の後を、88号が追う。
鳥とノレンは顔を見合わせて
「....武器を持つとキャラが変わる、ってタイプなのかな」
「さあ....一種の高揚状態になることはあるが.....」
と首をひねったが、同じく後に続いた。
「確かに立ち止まっていても仕方ない。今はとにかく進むのが最前の策か」
「わかった、行こう!」




彼らが選んだ扉は、地下へ続いていた。
曲がりくねった廊下と、時折現れる階段。
だが、途中で分かれ道になることもなく、とにかく奥へと進む一本道。
薄暗い、照度の低い電灯がそれを照らしている。
最初は何の変哲もないコンクリートの壁だったが、
下へ行くにつれて金属製になり、
謎の配線コードが無数に這い回りはじめた。
「うえ....なんか薄気味悪くなってきたなあ....」
「おっと」
「うわ!急に止まるなよ、ノレン!」
左右をきょろきょろと見回していた88号は前方の停止に気づかず、ノレンの背中にぶつかった。
「お手柄だな、ティッシュくん。大当たりだ」
「....鳥さん、ここは?」
横に並ぶ4人の足下は、一歩先から透明になっていた。
上下左右ガラス張りの廊下、目下では何人もの白衣を着た男女が、思い思いに机へ向かっている。
目下の研究者たちは、高い高い天井の近くにあるこの通路のことなど、全く気にかけずに研究に打ち込んでいる。
ある者は注射器を手にし、ある者は顕微鏡を覗き、ある者は電話を手に何か話しているようだ。
そしてその背後の壁には、何やら人の身長ほどはある大きなカプセルが、
コンベアに乗ってゆっくりと運ばれていた。
注射器を持った白衣の男が、カプセルに近づいていく。
その蓋を開けて何か作業をしているようだが、彼らのいる場所からはよく見えなかった。
「今まさに、『不死の研究』をしているところのようだ」
鳥がくちばしで指すのを追って視線を横へ向けると、
運ばれていくカプセルのレーンの先には、炉のようなものや、激しく火花を散らす装置があった。
それらはその中を通り....黒コゲの状態で、どこかまた別の部屋へと運ばれていくようだった。
「あの容器の中には、薬を投与された実験体が入れられているんだろう。
 この様子では、まだ薬そのものは完成してはいないようだね」
「ネイエはどこだあ!?」
「それっぽい物は見当たらないな....やっぱり保管してるのは勇者か」
「ここで作ってるなら、相当深いところまで来たってことだよね。
 案外この近くが、彼の部屋なのかも....」
そのまま目線を進行方向へ移す。
廊下の先を見ると、下で動いているカプセルの流れの元は、どうやらこの上方にあるようだ。
彼らの立つ場所の少し先には線路のようにレーンが敷かれており、
壁の右側から流れてくるカプセルはそこを通って左側へ、そして下り坂の吊りレーンを辿って、下の研究所へ送られている。
この流れが行く先を遮っているのだ。
「しかし邪魔なとこ通ってんな、このでっかいの」
「何でわざわざこんなとこに作るんだよ....通れないだろ!」
88号が悪態をつきながら、流れるカプセルのひとつを蹴飛ばした。
「そうだ、こんなもん壊しちゃおうぜノレン。下の奴らも驚いて研究やめるかも
 ....何笑ってんだよォ」
「は、誰が?」
「え?」

くすくす、と声を殺して笑う声が聞こえる。
しかし、ノレンもティッシュも、もちろん鳥も笑ってなどいないのだった。
それは他ならぬ、カプセルの先の道から漏れているのだ。
「ファムたちに、アラキくんに、役所の人々の心の安息。
 魔王が生み出すのは破壊だけだ...
 今度は何を壊す?この施設かい?」
それは、この世界の誰もが覚えているはずの声。
独り言のようなささやきだが、不思議とよく響いた。
「な.... なんでこんなところに」
「そりゃ、僕の城だからね。どこにいたって悪くはないはずさ」
「へっ、黒幕が自分からのこのこ出てきてくれりゃ、世話ないぜ!
見た目をはるかに上回る重量の腕を振りかぶって、ノレンが答えた。
「お望み通りぶっ壊して、そのツラあばいてやる!」
高い機械音、続いて重い金属が擦れるような音とともに、カプセルの動きが止まった。
「待て、ノレンくん!」
ほぼ同時に鳥が叫び、彼の右腕もピタリと止まる。
「....鳥さん?」
「ああ。気づかなければ後悔だけで済んだのに」
何かレーンを止める操作をしたらしい勇者の元から、再びボタンを押すような音がする。
すると、周囲のカプセルの上半分を覆っていた蓋がすべて開いた。
初めて輸送されていた物の中が明らかになり、4人は息を呑んだ。
「な....」
「こ、これは....!」
アラキの言葉を思い出す。
 『いなくても、必要なら養殖するんですよ、戦に巻き込まれて亡くなる人間のモルモットをね』
カプセルに入っていたのは、液体の中で目を閉じて眠っている『人間』だった。
「わあああああああ!!な、何だこれ....!!」
「心配はいらないよ。この世界の科学力でも、さすがに人を一から作り出すことはできない。
 これは街の人間から適当にサンプルをとって作り出した、養殖人間なんだ」
廊下を塞いでいたカプセルは5つ。5つの中身はすべて違う人間だった。
髪の長い女の子。体格のよい男性。中性的な姿の若者。老人。
「彼らには魂はない。個々の行動パターンを持ちはするけれど、学んだり話したりすることはない。
 もともと実験体の市街戦シミュレーション時に、標的として遊ばせるために生み出された。
 他のレーンのカプセルは、必要なとき、上のドームへ送られて『使用』される。
 でもこのレーンだけは製薬実験に流用しているんだ。人間で臨床実験をできるのは願ったり叶ったりだからね」
特に語調を変えることもなく淡々と話す彼に、言葉を返す。
「....命をなんだと思っているんだ」
「何だと思ってると思う?
 別に誰の命も奪っていない。僕はただ、するべきことをしているだけ」
「ふ、ふざけんなオイラたち何度もコロされかかったぞ!
 いいからネイエ返せよ!くっそ.....!」
隙間から通れないか、と88号が手を伸ばす。しかし、容器同士の間は指2本ほどしかない。
「.....」
ティッシュは、ふと自分の横にいるノレンを見た。 
先程から、カプセルのひとつを見上げたまま全く動かない。
「....ノレンさん、大丈夫?」
彼の見るカプセルを同じように見上げると、その理由は....なんとなく分かった。
彼が先程殴り壊そうとした容器に入っていた『人間』の顔は、ティッシュにも見覚えがあったのだ。
黒髪の、静かな雰囲気の女性。
誰だっけ、と口に出す前に思い出した。 潜水艦広場の脇の、あのパン屋の看板娘だ。
「さあ、おいでよ。
 確か僕も....まあ野蛮な口づけのせいだけど、君の城を少し壊したこともあったっけ。
 これで五分五分だよ」
「てめ....」
「確かに、今培養液から出したら崩れて溶けてしまうかもね。このレーンの彼らは不安定だから。
 でも、元になった本物の人間がそうなる訳じゃない。
 罪悪感なら僕がいくらでも取り払ってあげる」
「君は、先程から....まるで楽しんでいるようだな」
「そうだね、楽しい。何でだろうね。言ったはずだよ、『遊ぼう』と。
 さあ、ぼうっとしているうちに、世界中の人々が不老不死になってしまうよ。
 君はそれを止めに来たんだろう?災厄の子....」
向こう側から、また笑い声が聞こえた。

「いいよ、わかった。
 でも.....遊ぶんだったら、一方的なのはよくないと思うな」
答えたのはノレンではなかった。
「遊ぼう、ルールのあるゲームをしようよ。」
「な...なんのつもりだよ、ティッシュ!」
「しっ。....ここは、僕に任せて」
「しかし」
戸惑う仲間たちを背に、彼は進み出て、指二本の隙間に顔を近づけた。
「へえ、君から誘ってくれるとはね。
 つき合ってあげるよ」
「ノレンさんが勝ったら....このカプセルをどけて。
 でも、もし君が勝ったら、僕らはあきらめて家に帰る。
 世界中の人が不老不死になるの、黙って見てるよ」
「おい、おいおいおいおい!?」
「.....いや、任せよう。彼なりに何か、しようとしているんだ」
止めようとする88号を、鳥が片翼で制す。
「ふふ、面白い条件だね。君じゃなく、彼が勝ったら?」
「そう。彼が勝ったら」
「いいだろう。君のそういう意味の分からないところ、嫌いじゃないよ」
「条件、守ってくれるよね。勇者は嘘なんかつかないよね?」
「もちろん」
「そして『災いの魔王では、勇者にはかなわない』」
「その通り」
「ノレンさんは魔王?」
「彼は戦争の子、災厄の子。災いの魔王、全てを破壊するもの。最初に言ったね
 彼は破壊しか生まない」
「....おい、ティッシュくん。そろそろ僕も怒るぞ」
魔王呼ばわりされている当人が言うと、彼は、ずっと持て余していた銃を
ノレンの手に渡して、こう続けた。
「見える?いま、ノレンさんは銃を持ってる。
 君の言ったことが正しければ、彼は僕を撃てるよ」
命を救うなんてもってのほかだよね。
「で、正しい方が勝ち」



目の前の5つのカプセルが、真ん中から横一文字に割れた。
慌てて後ろへ下がる4人。
上半分が、中身と共にゆっくりと滑り落ち、狭い床にぶちまけられた。
目下の研究者らの数人が上を見上げ、ああ勇者さま、と繰り返している。
「.....2度目か」
遮る物がなくなった廊下の先には、にっこりと笑う軍服の少年が剣を鞘に収める姿があった。
「この世の全ては、エネルギーが均衡を保つことによって生じる事象。
 今君たちが持ち帰れば、僕の願いは叶わない....
 そして逆も然り」
肩のマントをひるがえし、背を向けて先へと歩いていく。
一度だけ振り返ると、彼はこう告げた。
「まったく....大好きだ、君らのこと。
 ついておいで。取り返せると思うなら」


勇者さま、勇者さま。
彼は行ってしまったが、下からの声はまだ聞こえている。
「確かにどけろ、とは言ったけど....言ったけどさ.....」
ティッシュはその場にへなへな、と座り込みながら、ぼそぼそつぶやいた。
「あまり見ない方がいい。...よくやってくれたよ、ティッシュくん」
「み、見直したぜえ....ノレンは魔王なんかじゃないぜ!な!!」
「いや、なんというか、もう.....」
「取り戻してやるさ」
カプセルの残骸の下敷きになった、偽物の人間だったものを見つめながら、ノレンは言った。
「勇者、ってのは、『勇ましい者』って書くんだ。
 ひきこもりのおしゃべりなお子様なんかに、僕らの夢を奪われてたまるかよ」
黒い髪が少し見える気がする。

「....行こう!もうすぐそこだ!」
残骸を越え、廊下を越え、そして彼らは最後の扉へ向かった。
Secret

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